はじめに
近年、日本各地で地震や豪雨、台風などの自然災害が頻発しています。
災害は、人々の生命や財産に大きな被害をもたらすだけでなく、心にも深い傷を残します。
災害後は、身体的な安全確保や生活再建が優先されがちですが、メンタルヘルスのケアも非常に重要です。
災害ストレスによって、PTSDやうつ病などの心の問題を抱える人が増加するためです。
本記事では、災害後に起こりやすいメンタルヘルスの問題や、PTSDの症状と対処法、子どものメンタルヘルスケアなどについて解説します。
また、支援者自身のセルフケアの重要性についても触れます。
災害への備えは、物理的な防災対策だけでなく、心の準備も必要不可欠です。
メンタルヘルスケアの知識を深め、いざというときに適切な対処ができるようにしておきましょう。
災害後に起こりやすいメンタルヘルスの問題
災害後は、様々なメンタルヘルスの問題が起こりやすくなります。
以下に、代表的な問題をいくつか紹介します。
急性ストレス障害(ASD)
災害直後から1ヶ月以内に、強い不安や不眠、イライラなどの症状が現れる障害です。
多くの場合、時間の経過とともに自然に回復します。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)
災害の恐怖体験が繰り返し思い出され、その記憶を避けようとしたり、感情が麻痺したりする障害です。
症状が1ヶ月以上続く場合にPTSDと診断されます。
数ヶ月、数年症状に悩まされることも珍しくありません。
うつ病
抑うつ気分や興味・喜びの喪失、不眠、食欲不振などの症状が現れる気分障害です。
身体症状から気づかれることもあります。
物質依存
災害をきっかけに、アルコールや薬物に依存してしまう問題です。
ストレスや不眠への対処として始まることが多いです。
これらの問題は、誰にでも起こり得るものです。
特に、自身や身近な方の被害が大きかった人や、もともと精神的な問題を抱えていた人は、ハイリスクだと言えます。
PTSDの症状と対処法
災害後のメンタルヘルスの問題の中でも、特に注目されているのがPTSDです。
PTSDは、適切な対処を行わないと、長期化・重症化してしまう恐れがあります。
PTSDの主な症状は、以下の3つです。
①再体験症状群
トラウマに関する記憶が繰り返しよみがえり(フラッシュバック)、悪夢として経験されます。記憶がよみがえる場合には、精神的な苦痛やさまざまな身体症状を伴うのが一般的です。②回避・麻痺症状群
トラウマに関する記憶を思い出させる人や場所、機会などを避けたり、なるべく考えないようになったりします。感情の麻痺があると、見た目には冷静に振る舞っていることがあり、顕在化していないことがあります。③覚醒亢進症状群(かくせいこうしんしょうじょうぐん)
些細なことでビクビクし不眠となったり、イライラして自暴自棄になり過剰に警戒したりするようになります。うつ病の場合も同様ですが、総合診療を担うプライマリ・ケア医を受診することが多いので、身体的な症状の裏に隠れているこれらの症状に気づけるかが診断の決め手となります。
出典:済生会「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」
これらの症状に対しては、主にまず認知行動療法が行われます。
トラウマ体験を語ったりイメージしたりすることで記憶を呼び起こし、恐怖を乗り越えるという方法です。
他にも眼球に刺激を与えることでトラウマを克服するという方法もあります。
また、薬物療法としては、PTSDはうつ病の併存が多いので、抗うつ薬の使用が多いそうです。
PTSDの治療には専門的な知識が必要です。
症状が重い場合は、早めに精神科医や臨床心理士に相談することをおすすめします。
子どものメンタルヘルスケア
災害は、大人だけでなく子どもにも大きな影響を与えます。
子どもは、自分の感情を上手く言語化できなかったり、大人とは異なる反応を示したりすることがあるため、特に注意が必要です。
子どものメンタルヘルスケアで大切なのは、子どもの気持ちに寄り添い、安心感を与えることです。
具体的には、以下のようなことです。
・子どもの話に耳を傾け、受け止める
・正しい情報を伝え、安心材料を与える
・生活リズムを整え、遊びの時間を確保する
・スキンシップを多くとり、愛情を示す
子どもの様子がいつもと違う場合は、「どうしたの?」と優しく問いかけてみましょう。
ただし、問い詰めるような言動は避け、子どもが話したいときに話せる環境を作ることが大切です。
参考:厚生労働省「子どものこころと向きあう」
学校や地域でも、子どものメンタルヘルスに配慮した支援が求められます。
スクールカウンセラーの配置や、保護者向けの講習会の開催など、関係機関が連携して取り組んでいく必要があります。
支援者のセルフケアの重要性
災害支援に携わる人も、大きなストレスにさらされます。
被災者の悲しみや苦しみを目撃したり、遺体の捜索・収容に関わったり、過酷な状況に置かれます。
消防隊員、自衛隊員、警察官など、災害時に第一線で活動される支援者自身のメンタルヘルスが損なわれることがあるのです。
参考:長野県「Ⅳ 支援者自身のケア」
支援者のメンタルヘルスケアは、被災者支援の質を維持するためにも欠かせません。
燃え尽き症候群や共感疲労を予防し、支援を継続できる状態を保つことが大切です。
そのためには、支援者自身がセルフケアを行う必要があります。
休息を取る、同僚と思いを共有する、息抜きの時間を作るなど、ストレス解消法を見つけましょう。
また、組織としてもスタッフのメンタルヘルスケアに取り組むことが重要です。
業務量の調整や、相談窓口の設置、休暇取得の推奨など、様々な方法が考えられます。
支援者のメンタルヘルスを守ることは、被災者支援の大前提です。
支援者自身も、セルフケアの重要性を理解し、実践していくことが求められます。
まとめ:心のケアも防災の一環として考えよう
本記事では、災害後のメンタルヘルスケアについて解説してきました。
災害は、人々の心に大きな傷を残します。
PTSDやうつ病など、様々な心の問題が起こりやすくなるのです。
心のケアは、災害への備えの一環として、平時から考えておく必要があります。
メンタルヘルスの知識を深め、セルフケアの方法を身につけておくことが大切です。
また、子どものメンタルヘルスケアや、支援者のセルフケアにも目を向けることが重要です。
関係機関が連携し、切れ目のない支援体制を構築していく必要があります。
災害は突然やってきます。
しかし、日頃からメンタルヘルスケアについて学び、備えておくことで、その影響を最小限に抑えることができるはずです。
一人ひとりができることから始めて、災害に負けない強い心を育んでいきましょう。
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