災害報道の在り方と課題~被災者に寄り添う報道とは~

対策

はじめに

自然災害が頻発する日本において、災害報道は欠かせない存在です。
災害時には、報道機関が提供する情報が、人々の生命や財産を守る重要な役割を果たします。

しかし、災害報道には様々な課題もあります。
被災者の心情に配慮しない取材や、扇情的な報道、デマの拡散など、報道のあり方が問われる事例も少なくありません。

本記事では、災害報道の役割と責任、倫理とガイドライン、ソーシャルメディア時代の災害情報の拡散と影響、災害報道が被災者に与える影響について解説します。

正確で思いやりのある災害報道とは何か。
報道機関と市民が協力して、より良い災害報道を実現するためには何が必要か。
一緒に考えていきましょう。

災害報道の役割と責任

災害報道は、災害時に人々の生命と財産を守るために欠かせない役割を担っています。
その主な役割は以下の通りです。

正確な情報の提供

災害時には、人々は正確な情報を求めています。
避難指示や被害状況、ライフラインの復旧見通しなど、生活に直結する情報を迅速かつ正確に伝えることが、報道機関の責務です。

特に、発災直後は情報が錯綜しがちです。
報道機関は、情報の真偽を確認し、デマの拡散を防ぐ必要があります。

被災地の状況の伝達

被災地の状況を伝えることも、報道機関の重要な役割です。
被災地の生の声を届けることで、支援の輪を広げることができます。

また、被災地の課題や復興の進捗状況を継続的に報道することで、被災地に対する関心を持続させることができます。

防災・減災意識の啓発

報道機関は、防災・減災意識の啓発にも貢献することができます。
過去の災害の教訓や、防災対策の重要性を伝えることで、人々の防災意識を高めることができます。

また、平時から防災情報を発信することで、いざというときに役立つ知識を提供することができます。

一方で、災害報道には大きな責任も伴います。
不正確な情報の提供や、被災者の心情に配慮しない報道は、かえって被害を拡大させかねません。
報道機関は、自らの報道が社会に与える影響を十分に認識し、責任ある報道を心がける必要があります。

災害報道の倫理

災害報道は、人々の生命と安全に直結する重要な情報を伝える一方で、様々な倫理的課題を抱えています。

まず、正確性と迅速性のバランスが求められます。
災害時には情報が錯綜しがちですが、デマや誤報を避け、正確な情報を素早く伝えることが報道機関の責務です。
しかし、スピードを優先するあまり、情報の真偽の確認が疎かになってはなりません。

次に、被災者の人権やプライバシーへの配慮が重要です。
取材の際は、被災者の心情に寄り添い、二次被害を与えないよう細心の注意が必要とされます。
センセーショナルな報道や、一方的な制裁を加えるような報道は慎むべきでしょう。

また、災害報道には防災・減災への貢献も期待されます。
単に被害の実態を伝えるだけでなく、今後の教訓を見出し、具体的な対策を提案していくことが求められます。

さらに、報道機関自身の責任の検証も欠かせません。
大災害時には報道機関の機能も制約を受けるため、日頃からの備えと関係機関との連携が重要になります。
また、原発事故報道などでは報道姿勢の問題点も指摘されており、説明責任を果たしていく必要があるでしょう。

加えて、ソーシャルメディア時代ならではの課題もあります。
SNSでの情報拡散が加速する一方、デマのリスクも高まっています。
報道機関はSNSの特性を理解し、正しい情報発信に努めなければなりません。

以上のように、災害報道には様々な倫理的ジレンマがつきまといます。
報道の自由と被災者の人権、迅速性と正確性など、時に相反する価値観のバランスが問われるのです。
メディアの自覚と不断の努力、そして社会全体での議論が求められていると言えるでしょう。

ソーシャルメディア時代の災害情報の拡散と影響

近年、ソーシャルメディアの普及により、災害情報の拡散のあり方が大きく変化しています。
ソーシャルメディアは、情報の拡散を加速させる一方で、デマの拡散という新たな課題も生んでいます。

東日本大震災では、X(Twitter)が情報収集や安否確認に大きな役割を果たしました。
一方で、デマの拡散も問題となりました。
例えば、「コスモ石油千葉製油所の爆発で有害物質が飛散した」というデマが拡散し、混乱を招きました。
出典:朝日新聞デジタル「シェアされた震災デマ否定 ソーシャル時代の新聞の意義(朝日新聞デジタル20周年特集)」

熊本地震では、「動物園からライオンが逃げ出した」というデマがSNSで拡散しました。
このデマは、動物園の職員の安全確認を遅らせるなど、実際の被害をもたらしました。
出典:熊本日日新聞「「ライオン逃げた」熊本地震のデマ 熊本市動植物園あの時 国内初の猛獣県外避難、余震に脅えた動物たち」

ソーシャルメディア時代の災害報道では、デマの拡散を防ぐことが大きな課題となっています。
報道機関は、SNS上の情報を鵜呑みにせず、情報の真偽を確認する必要があります。
また、デマ情報を見かけた際には、積極的に否定することも重要です。

一方で、ソーシャルメディアは、被災地の生の声を伝える重要な手段でもあります。
報道機関は、SNS上の情報を有効に活用しながら、デマの拡散に注意を払う必要があります。

災害報道が被災者に与える影響

災害報道は、被災者に大きな影響を与えます。
時には、報道が被災者の心理的負担を増大させることもあります。

阪神・淡路大震災では、被災者の「悲惨な姿」を伝える報道が問題となりました。
プライバシーに配慮しない取材や、センセーショナルな報道が、被災者の心情を逆なでするケースがありました。
参考:自然災害学会「被災者に“寄り添った”災害報道に関する一考察-5.12中国汶川大地震の事例を通して-」

過去には、センセーショナルな報道を追い求めるあまり、報道関係者が危険な場所に足を踏み入れることもありました。
1991年の雲仙普賢岳大規模火砕流では、避難勧告が出ている場所で噴火の映像を撮ろうとした報道関係者16人に加え、警戒を呼びかけていた消防団員や警察官など、多数の市民も火砕流によって犠牲になっています。
報道関係者が災害を軽視し、臨場感のある画を撮ろうとしたことにより、一般人が巻き込まれたのです。
参考:NHK「“危険と分かって近づいたのか” 雲仙普賢岳30年前の教訓」

東日本大震災では、「津波」「がれきの山」「原発爆発」といったショッキングな映像が繰り返し流されました。
こうした報道は、被災者に二次的なストレスを与えたと指摘されています。

一方で、被災者の声に耳を傾け、寄り添う報道も重要です。
被災者の生の声を伝えることで、支援の輪を広げることができます。
また、被災者同士をつなぐ役割も期待されます。

報道機関は、被災者への影響を十分に考慮し、倫理的な報道を心がける必要があります。
また、報道が与える影響について、被災者と対話を重ねることも大切です。

まとめ:正確で思いやりのある災害報道を目指して

災害報道は、人々の生命と財産を守るために欠かせない役割を担っています。
しかし、その一方で、倫理的な課題も抱えています。

正確で思いやりのある災害報道を実現するためには、報道機関と市民の協力が不可欠です。
報道機関は、災害報道ガイドラインを踏まえ、高い倫理観を持って報道に臨む必要があります。

また、ソーシャルメディア時代の災害報道では、デマの拡散に注意を払いながら、SNSの特性を生かした情報発信が求められます。

市民も、災害報道に対する理解を深め、建設的な意見を発信していくことが大切です。
報道機関と市民が協力し、より良い災害報道を追求していくことが、防災・減災につながるはずです。

災害大国である日本において、災害報道の果たす役割は大きくなる一方です。
私たち一人ひとりが、災害報道のあり方について考え、行動することが求められています。

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